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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(オ)219号 判決

上告人

安藤正美

右訴訟代理人

青柳虎之助

被上告人

株式会社 ナゴヤ洋服

右代表者

中川健次郎

右訴訟代理人

原田武彦

被上告人

北野磯

被上告人

吉田春乃

右訴訟代理人

岩田孝

外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人青柳虎之助の上告理由第一点、第三点及び第四点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨を非難するものであつて、採用することができない。

同第二点について

土地区画整理法による換地処分がされた場合、従前の土地に存在した未登記賃借権は、これについて同法八五条のいわゆる権利申告がされていないときでも、換地上に移行して存続すると解すべきである。けだし、土地区画整理事業は健全な市街地の造成を図り、公共の福祉の増進に資することを目的とし、その施行者は、右目的達成のため土地の区画整理をするのであるが、土地についての私権の設定、処分はできないのであるし、また、土地区画整理法一〇四条一、二項各前段によると、換地は従前の土地とみなされるのであつて、従前の土地についての権利は換地上に移行するというべきであるからである。なお、同法一〇四条一、二項各後段は、換地計画において権利の目的となる換地又は換地部分が定められなかつた場合には従前の土地についての権利は消滅する旨規定するが、前述の土地区画整理事業の趣旨及び換地の本質に鑑み、右の換地又は換地部分が定められなかつた場合とは、同法九〇条のいわゆる関係者の同意による換地不指定清算処分及び同法九一条三項のいわゆる過小地についての換地不指定処分の場合をいうにとどまると解するのを相当とする。

右と同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸上康夫 下田武三 岸盛一 団藤重光)

上告代理人青柳虎之助の上告理由

第一点 〈省略〉

第二点 原判決は法律の解釈適用を誤つた違法があり破棄を免がれない。

すなわち、原判決はその理由一において、

「中区裏門前町一丁目一番の四五宅地五〇坪六合および同番の四七宅地五〇坪が控訴人の所有であること、昭和二二年七月三一日、名古屋市が右二筆の土地に対し二〇坪六合を削減して八〇坪を仮使用地として指定したこと、同二九年一二月二五日名古屋市長が特別都市計画法一三条に基き右仮使用地と同一の土地を前記二筆の土地の換地予定地に指定し、同時に面積を七九坪五勺と訂正したこと、同四四年一〇月二〇日換地処分が行われ、右換地予定地は中区大須三丁目一五〇六番地宅地261.35平方メートルとなつたこと当事者間に争いない」

旨同二1において、

「整理事業者名古屋市長に対しその賃借権の申告をなさず、従つて賃借権について仮に権利の目的となるべき土地の指定を受けていないことは弁論の全趣旨に徴し明白である」旨

以上の認定をした上、左記のとおり判示した。

「特別都市計画法(土地区画整理法)に基き換地予定地(仮換地)指定があつた場合、換地処分がなされるまでの間に従前の土地についての未登記賃借権者において同法第八五条一項による権利申告をせず、従つて仮換地につき同法九八条による使用収益権部分の指定を受けなかつたため換地処分の際、換地について右賃借権の目的となるべき土地を定められなかつたときも、右賃借権は消滅することなく換地の上に移行するものと解するのが相当である(中略)、よつて被控訴会社の本件賃借権は換地処分とともに換地の上に移行し依然存続しているものというべきである」と。

しかしながら、土地区画整理事業が施行せらるに当り従前の土地の形状が一新されるのみならず、宅地面積の減少位置の変更を生ずるものであるから、仮に法の定める標準により換地上の借地権の位置範囲が客観的に定まつていても実際上不明確であつて、これを借地権者に確定させることは賃貸人との間に徒らに紛争混乱を生ぜしめることが必然であるところから、法は技術的に精通している施行者のみに対しこれを確認宣言する権限を付与し、その他の者が同確認宣言をすることはできないのである。

従つて他人の土地の一部につき借地権を有するものは土地区画施行者に対しこれを届出て借地権の位置範囲の指定を受けない限り借地権を失うのであつて、裁判所がこれを確認宣言することはできない。この点については先に昭和三三年七月三日言渡の最高裁判決(昭和三一年(オ)第六二三号)は土地の一部の賃借人が土地区画整理法第八五条の権利申告をなさなかつたため仮換地について賃借権を主張する権利を失つた旨を明示しているのである。

従つて被上告会社の賃借権は昭和二七年一一月五日終了しなかつたとしても、昭和二九年一二月二五日名古屋市長の本件土地に対する換地予定地処分又は遅くとも昭和四四年の換地処分によつて被上告会社は上告人に対し賃借権主張の権利を失つたというべきであつて、この点において原判決は破棄せらるべきである。〈以下省略〉

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